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新潟地方裁判所 昭和51年(ワ)546号 判決

原告

佐藤ヒデ子

ほか二名

被告

新潟いすゞ下越販売株式会社

主文

一  被告は原告佐藤ヒデ子に対し金七〇七万五四二九円および内金六四三万二四二九円に対する昭和五〇年四月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告佐藤恒太郎、同佐藤ハルヨに対し各金四三三万〇三二八円および内金三九三万六三二八円に対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告らの、その一を被告の各負担とする。

四  この判決第一項は原告佐藤ヒデ子において金一五〇万円の、原告佐藤悦太郎、同佐藤ハルヨにおいていずれも金一〇〇万円の各担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告らの請求の趣旨

1  被告は原告佐藤ヒデ子に対し金一七八八万七七五八円および内金一六三八万七七五八円に対する昭和五〇年四月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告佐藤恒太郎、同佐藤ハルヨに対しそれぞれ金八九六万〇五四五円および内金八二六万〇五四五円に対する右同日から支払ずみまで右同割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決と第1項につき仮執行宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

請求棄却、訴訟費用原告負担の判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  (事故の発生)

訴外渋谷政則は昭和五〇年四月二六日午後一時四〇分ころ、新発田市大宇曽根六一五番地被告会社構内において、整備完了した普通貨物自動車を約五〇メートル後退して整備車両置場に格納しようとしたが、もともと同所は被告会社の構内であり、特に後退進路左側に建物があつて人の出入りが充分予想されたのであるから乗車前に後退進路の安全を確認し、後退合図をすることはもちろん運転者席の窓より顔を後方に向け、かつ後写鏡によつて自車の左右後方を注視して安全を確認しつつ最徐行で後退進行すべきであるにもかかわらずこれを怠り、左右後方の安全確認不十分のまま漫然時速約八キロメートルで後退進行した過失により、約四五メートル後退した地点でたまたま同所を歩行中の訴外佐藤政邦に気づかず、同車後部を同人に接触して同人を転倒させて左後車輪でその頭部を轢過し、よつて同人を同所において即死するに至らせた。

2  (被告会社の責任)

右事故は被告会社が修理のため預つた前記普通貨物自動車をその被用者である渋谷政則が運転して惹起させたものであるから、被告会社は自動車損害賠償保障法三条にいう運行供用者として後記損害を賠償すべき責任がある。

3  (原告らの身分関係)

原告佐藤ヒデ子は佐藤政邦の妻であり、原告佐藤恒太郎、同佐藤ハルヨは佐藤政邦の実父母で、いずれもその相続人(相続分は原告ヒデ子二分の一、原告恒太郎、同ハルヨ各四分の一)である。

4  (損害)

(一) 佐藤政邦の得べかりし利益の喪失による損害

佐藤政邦は昭和一八年一一月六日生まれで本件事故当時満三一歳の健康な男子であり、本件事故がなければなお四二年余生存するものと推定される。同人は当時被告会社に勤務し、事故直前の昭和五〇年一月から同年四月までの四か月間の平均月給収入は一五万六一三五円であり、賞与として通常夏季には月給の二か月分、冬季には月給の二・五か月分の支給がなされており、事故当時ベースアツプがあり佐藤政邦は月額一万〇九〇〇円アツプした筈であつたから、これを前提にしてその年間収入を計算すると二七五万六〇七七円となる。そして同人は世帯主であつてその生活費として収入の三〇パーセントを控除すべきであるから、年間の純収入は一九二万九二五三円である。

ところで同人は本件事故に遭遇しなければ被告会社の定年である五五歳まで二四年間右同額の純収入を、また定年後には再就職して稼働可能な六七歳までの一二年間少なくともそれまでの半額の純収入を得べかりしものであり、同人は本件事故による死亡により右の全純収入を一挙に失い、同額の損害を蒙つたものである。

よつて中間利息の控除につきホフマン式計算方法を採用して事故発生時における佐藤政邦の損害の一時払額を求めると次のとおり三四五〇万八八五四円となる。

1,929,253円×15,499,724=29,902,889円…………(A)

1,929,253円×1/2×(20.274593-15.499724)=4,605,965円……………(B)

(A)+(B)=34,508,854円

原告らは同人の死亡により被告会社に対する右損害賠償請求権を原告ヒデ子が二分の一の一七二五万四四二五円、原告恒太郎、同ハルヨが各四分の一の八六二万七二一二円ずつ相続した。

(二) 葬式費用等

原告らは被告会社による社葬とは別に新潟県北魚沼郡入広瀬村の実家において葬儀を行い、昭和五〇年七月二六日同地方でいう初盆をなして合計七四万二〇〇〇円の出費を余儀なくされたが、そのうち四〇万円は本件事故による損害賠償として請求しうる相当範囲の額であるから、原告各自がこれを三分の一ずつ出捐したものとして各一三万三三三三円ずつ被告会社において賠償すべきである。

(三) 原告らの慰藉料

佐藤政邦は健康で真面目な人柄で周囲から将来を期待されていたものであり、妻に対しては優しく思いやりにあふれ、父母には長男として一生懸命孝養をつくしていた。本件事故による不慮の死は原告らをいたく失望落胆させたもので、その精神的苦痛はまことに甚大である。しかるに被告会社は再三の長期にわたる交渉にもかかわらず誠意を示さない。原告らの慰藉料としては原告ヒデ子につき四〇〇万円、原告恒太郎、同ハルヨにつき各二〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用

原告らは被告会社との示談交渉を大阪弁護士会所属弁護士尾崎嘉昭に依頼し、その後訴訟のやむなきに至つたため、その提起遂行を同弁護士および新潟弁護士会所属弁護士平沢啓吉の両名に委任し、第一審判決の際に報酬として原告ヒデ子が一五〇万円、原告恒太郎、同ハルヨが各七〇万円右弁護士らに支払う旨約束し、右同額の債務を負担した。

(五) 自賠責保険からの填補

原告らは本件事故により自動車損害賠償責任保険から保険金として一〇〇〇万円の給付を受け、これを原告ヒデ子が五〇〇万円、原告恒太郎、同ハルヨが各二五〇万円ずつ分割して前記各原告の損害に充当した。

5  (結論)

そこで被告会社に対し、(一)原告ヒデ子は前記損害額合計二二八八万七七五八円から自賠責保険金による充当分五〇〇万円を差し引いた一七八八万七七五八円および内金一六三八万七七五八円(弁護士費用分控除)に対する本件事故発生の日である昭和五〇年四月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、(二)原告恒太郎、同ハルヨはそれぞれ前記損害額合計一一四六万〇五四五円から自賠責保険金による充当分、二五〇万円を差し引いた八九六万〇五四五円および内金八二六万〇五四五円(弁護士費用分控除)に対する右同日から支払ずみまで右同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因第1、2項の事実中、渋谷政則が本件事故発生当時被告会社の従業員であり、本件事故が原告主張の日時、場所において被告会社の修理のため預つた車両をその被用者である渋谷政則が運転していて発生したものであることは認めるが渋谷政則の過失の存在、被告会社の帰責事由の主張については争う。

2  同第3項の事実は認める。

3  同第4項(一)の佐藤政邦の生年月日、健康状態については認めるが、その余は全て争う。ホフマン式計算方法により中間利息を控除し逸失利益を計算する方法については争わない。(二)の事実は知らない。(三)の事実・主張は争う。(四)の事実は知らない。(五)の事実中原告らが合計一〇〇〇万円の自賠責保険金を得たことは認めるがその余の事実は知らない。

三  被告の抗弁

1  (過失相殺)

本件事故は原告主張の日時場所で発生したが、当日はフエーン現象下の好天気で異常乾燥注意警報が出され、東南風一一・三メートル、最高気温二四度、湿度三九パーセントであり、被告会社構内は面積約九三〇坪でそのうち約三五〇坪は舗装してあつたが奥の方は埋立てたままの砂地で多少凹凸があつたので、車両の運行の際には低速度であつても、当日砂埃が立ち易い状況にあつた。

佐藤政邦は当時被告会社の幹部社員でフロント(受付)係長であり、同人は伊藤布団店から、いすゞ四トントラツク(車長九・二五メートル、車幅二・三三メートル、車高二・四九メートル、幌付車)の排気ガスの噴出による布団類の汚れを防ぐため排気管を短くする修理の依頼を受け、受付指示書を記載してこれを現場係長三宅晴夫に引継ぎ、三宅が指示書にもとづいて渋谷政則、本間幸雄の両名に、サイレンサー(消音器)の後部約三五センチメートルのところより排気管を約四メートル斜下方に切断する修理を指示し、右両名がその修理に当つた。修理が完了して渋谷は直接の上司である三宅に報告したところ、三宅は自ら車両の後退につき誘導もせず、又他に誘導者をつけることも指示せず、当時の被告会社構内における一般的取扱にしたがつて構内奥向いの車両置場に運行するよう命じ、渋谷が右車両を後退運行中に本件事故が発生したのである。

本件事故は被告会社の自動車修理工場の一部である被告会社構内で発生し、被害者・加害者とも被告会社の従業員であり、しかも被害者の方が年長かつ上役であり、ともに被告会社従業員として特別の注意義務を負担していたのである。被告会社の自動車修理工場構内では道路上と異なり、自動車運転免許をえないで自動車を移動のため運行することもでき、大型車等の後退時においても誘導者を付すべき義務がなく、工場内に部外者が立入る場合にはその都度案内人を付けるので特段の場合の外は部外者の立入は予想されず右工場内では人より車が優先し、従業員は各々車両の移動につき危険を避けるべき注意義務を負つていたのである。

渋谷は右の三宅の指示により、乗車前車の後方左右の安全を確認し乗車後も窓から顔を出して安全確保に努めつつ、バツク音を鳴らして時速八キロメートル前後の速度で後退し始め、車が被告会社構内の舗装地区を過ぎて未舗装部分に来てはじめて佐藤政邦を轢いたことに気づいた。佐藤政邦は右車両の右側の建物内にいて後の戸口から建物外へ出て中古車置場へ行こうとした途中本件事故に遭遇したのである。

当時の被告会社構内の状況からして、佐藤政邦も渋谷の運転する前記車両のバツク音及び運行音が聞こえぬはずがなく、また右車両の車体は工場のどこからでも明認しうる状況にあつたのである。このような場合、従業員たる者は何人も渋谷の後退運行している車両に対して厳重に注意すべきものであつた。しかるに佐藤政邦は漫然右車両より先に通り抜けられるものと速断したか、小走りでもしているうち滑つたかして、右車両に轢かれたのである。

以上のとおり本件事故の発生には佐藤政邦の過失も大きく寄与しておりその過失は佐藤政邦七割に対し渋谷三割の割合というべきである。

四  抗弁に対する原告の認否

抗弁事実は争う。仮に佐藤政邦にも過失があつたとしても、本件事故は渋谷が相当の高速度で後退中に惹起されたものであり、日ごろ後退時には誘導員を付けるよう指導されていたことなどを考慮すれば、佐藤政邦の過失割合は一割五分を上まわるものではない。

第三証拠〔略〕

理由

一  昭和五〇年四月二六日午後一時四〇分ころ、新潟県新発田市大字曽根六一五番地所在の被告会社構内で、被告会社が修理のため預つた普通貨物自動車(新一一す六二八)をその従業員渋谷政則が運転していて、同じく被告会社従業員であつた佐藤政邦(昭和一八年一一月六日生)に衝突転倒させ、同人を轢過し即死するに至らしめた交通事故が発生した事実は当事者間に争いがない。

二  成立に争いない甲第六号証、甲第八号証ないし第一七号証、乙第四号証の二ないし五、乙第五号証、証人渋谷政則の証言を総合すれば右交通事故発生の態様は次のとおりであつたと認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

右普通貨物自動車は四トン車で車幅二・三五メートル、車長九・二五メートルで幌がついており、自動車の修理販売を営む被告会社が伊藤商店から排気管修理のため預つていた車両である。渋谷が被告会社構内の一般作業場でこの車両に所要の修理を施し、その整備完了検査を受けるため右作業場脇の工場事務室(フロント)横に該車両をつけ、上司の整備係長三宅晴夫の点検了承を得た後、約五〇メートル余離れた被告会社構内奥の車両置場に該車両を保管すべく後退運行して移動することになつた。渋谷は右車両の左側に立つて後方の進行方向を見渡して後退進路上に人影や車両等の障害物のないことを確認し、次いで右車両の前を通つて運転席のある右側に来て再びその地点から後退進路上の障害物のないことを確認した後、運転席に上り、バツクミラーで見える範囲の安全確認をし、運転席右窓から首を出して後方を見つつ、時速約八ないし一〇キロメートルで後退運行を始めた。右車両には後退警音器が付いており、右後退時にもこれが正常に作動して後退警告音を発していた。渋谷は後退中二回ほどバツクミラーを見たが異常を発見せず、そのままやや斜め右方向に後退を続け、被告会社構内で最も奥の車両置場まで右車両を移動したが、右車両の後退を終え、運転席から下りたとき始めて、右車両に衝突転倒して轢過された佐藤政邦の横たわつているのを発見した。佐藤はその直前までフロントで車両修理の受付等をしていたが、車両修理の指示等のため被告会社構内奥の右車両置場ないし中古車置場まで出かけようとして、前記一般作業場のある建物から被告会社構内へ出、これを横切ろうとして歩行中、後退進行してくる渋谷運転の前記車両後部バンパーに接触衝突して転倒し、左後輪に轢過されたものである。

三  また成立に争いない甲第八号証、第一七号証、乙第四号証の一、証人鎌倉博の証言を総合すれば、被告会社構内における車両の移動に関しては次の各事実を認めることができ、右認定に反する甲第九号証ないし第一六号証中の、被告会社にはその構内において車両を後退運行する際、必ず誘導者を付さなければならない旨の規定、指示又は指導があつた趣旨の供述部分は、前記各証拠に照しにわかに措信しがたく、他に右認定に反する証拠はない。

被告会社の構内は一般公衆が自由に出入りして通行できる道路と異なり、部外の運転手が修理完了車を引き取りに来た場合や従業員が付いて案内する場合等の例外的な場合を除けば、原則として部外者の立入を禁じている自動車修理工場の一部であり、必要に応じて運転免許の所持の有無を問わず、従業員が車両の移動に従事しても差支えない場所である。各従業員は他の車両が障害となつて狭くなつている部分を通過するなどの特別の事情のある場合のほかには、車両移動のため後退運行しなければならないときでも誘導者を付することなく単独で、自己の判断により後退進路の安全を確認しつつ、後退運行することも差しつかえないこととされていた。また右のような自動車修理工場の一部としての被告会社構内の特殊性からして、被告会社構内においては、各従業員とも車両の移動を妨げて修理作業の能率低下を来すことのないように注意し、互いに危険を避けるよう行動しなければならない旨指導されていた。

四  以上の争いない事実と認定した事実とに鑑みると、渋谷政則、被告会社、佐藤政邦には次のような過失があつて、ともに本件交通事故発生に寄与したものと認めるのが相当である。

1  渋谷においては、右車両が車長九・二五メートルの幌付車で、後退警音器の装置があるとはいえ、後退進行時における死角、特に左後方におけるそれは特段に大きいのであるから、右のような被告会社構内の自動車修理工場の一部としての特殊性を考慮してみても、左後方の一般作業場のある建物に出入りする従業員らが、運転者の気づかないうちに死角に来て後退進路上に接近してくるおそれが全く予想されないわけではないのであるから、右車両を後退進行させる際には誘導者を付して後退運転に当るべき注意義務がまずあつたというべきであり、仮に誘導者を付さない場合においては、いやしくも、運転時における後退車両の死角に、歩行者や他の車両が入り後退進路の安全を確保しえないことのないよう、運転開始前に左後方の人の出入りが予想される一般作業場等の建物内部の見える位置まで行き、後退進路上に歩行者や他の車両の進入するおそれが全くないことを直接確認しておくことはもちろん、さらに運転時には左バツクミラーに充分注意を払いつつ最徐行で進行し、歩行者や他の車両に衝突するようなことのないようにしなければならない注意義務があつたのに、これらのいずれをも怠つた過失があるというべきである。

2  他方、佐藤政邦においては、被告会社従業員としての経験に照し被告会社構内が車両の移動がスムースかつ迅速に行われねばならない自動車修理工場の一部であり、誘導者なしに後退進行してくる、死角の大きい車両のありうることを熟知していたものと認められるのであるから、同所を歩行するに際しては、車両移動の妨げとならないよう充分注意して直ちに避譲できるよう行動すべきであつたのに、右車両が四トン貨物自動車としての相当大きなエンジン音、後退警告音を発しながら後退進行してくるのに気づかなかつたか、又は漫然その直前を横切れるものと速断して右車両の直前を通過しようとした点に過失があつたというべきである。

3  更には自動車修理工場を経営し、従業員の安全に充分配慮すべき被告会社としては、右のような車長の、幌付貨物自動車の後退運行にあたつては、必ず誘導者を付してこれを行わねばならない旨各従業員に指導を徹底すべきであつたのに、これを怠つた過失があるというべきである。

4  右の諸点を総合して考えると、本件交通事故の発生に寄与した過失は被告会社・渋谷政則側において六〇パーセント、被害者佐藤政邦側において四〇パーセントの割合というべきである。そして本件交通事故は被告会社が修理のため預つた前記車両をその従業員である渋谷政則が運転中に発生せしめたものであるから、被告会社は自動車損害賠償保障法三条にいう右車両の運行供用者として、これにより生じた損害を賠償すべき責任がある。

五  そこで損害賠償額について検討する。

1  佐藤政邦の逸失利益についてみると、成立に争いない甲第四、五号証、証人加藤宗平の証言、原告佐藤ヒデ子本人尋問の結果によれば、佐藤政邦は本件事故当時満三一歳の健康な男子であり、本件事故に遭遇しなければ、なお被告会社の定年である満五五歳までの二四年間同社に勤務することができ、その間毎月の給与および年二回の賞与を含め一年間に平均して二七五万六〇七七円を下廻らない収入があり、定年後はなお稼働能力の推定される満六七歳までの一二年間他に再就職して毎年平均して右金額の二分の一を下廻らない収入を得たものと推定することができ、この間世帯主である同人の生活費は右収入の三〇パーセントを上廻らないものと推定しうるから、ホフマン式計算方法により年五分の中間利息を控除する方法で佐藤政邦の本件事故時における逸失利益を算定すれば、原告主張のとおり三四五〇万八八五四円となる。

2  次に葬祭費用についてみると、原告本人尋問の結果によれば、遺族である原告らが被告会社の社葬とは別に佐藤政邦の実家において葬儀を行い、その後の法事の費用も含め、七四万二〇〇〇円の出費を余儀なくされた事実を認めることができる。そして社会通念に照し、このうち四〇万円は本件事故と相当因果関係のある範囲内の損害というべきである。

3  以上によれば本件事故による佐藤政邦の逸失利益および葬祭費用の合計は三四九〇万八八五四円であるが、前記過失割合により過失相殺を施して被告会社が賠償すべき損害分を求めると、二〇九四万五三一二円となる。原告ヒデ子が政邦の妻であり、原告恒太郎、同ハルヨが政邦の父母であることは当事者間に争いがなく、原告らは政邦を原告ヒデ子二分の一、原告恒太郎、同ハルヨ各四分の一の割合で法定相続し、葬祭費用についても右相続分に応じてこれを負担したものとみるべきであるから、逸失利益の相続分および葬祭費用として原告ヒデ子は一〇四七万二六五六円、原告恒太郎、同ハルヨは各五二三万六三二八円の損害賠償請求をなしうる筋合である。

そして、政邦が一家の支柱であり世帯主ではあるが原告ヒデ子との間にはまだ子供を生じていないこと、同原告は労災遺族補償年金、厚生年金をも受給できること、その他前記過失割合等本件に顕れた一切の事情を併せて総合勘案すると、原告らの精神的苦痛は強いてこれを金銭に換算すれば、原告ヒデ子においては二四〇万円、原告恒太郎、同ハルヨにおいては各一二〇万円をもつて相当とすべきである。

4  そうすると、被告会社に対し原告ヒデ子は一二八七万二六五六円、原告恒太郎、同ハルヨは各六四三万六三二八円の損害賠償請求権を有することになるところ、自賠責保険金として原告らが一〇〇〇万円受領していることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨に徴し、このうち金五〇〇万円を原告ヒデ子が、各金二五〇万円ずつを原告恒太郎、同ハルヨがそれぞれ受領した事実を認めることができ、さらに新発田労働基準監督署長に対する当裁判所の調査嘱託回答書によれば、原告ヒデ子は労働者災害補償保険法にもとづく遺族補償年金として二一万九二九二円、遺族特別年金として一八万九四二五円、葬祭料として三万一五一〇円、遺族特別支給金として一〇〇万円、以上合計一四四万〇二二七円の支給をすでに受けていることを認めることができるから、右自賠責保険金および既支給労災補償給付金を損益相殺として控除し、原告ヒデ子においては六四三万二四二九円、原告恒太郎、同ハルヨにおいては各三九三万六三二八円の未払損害賠償請求権を有するということになる。

5  原告らが弁護士平沢啓吉、同尾崎嘉昭の二名を訴訟代理人に選任し、本訴の提起遂行に当つたことは当裁判所に顕著であり、原告佐藤ヒデ子本人尋問の結果によれば、原告らは右弁護士らとの委任契約上第一審判決時において請求原因第4項(四)記載のとおりの報酬を支払う旨約した事実を認めることができるけれども、本訴提起に至る経緯、訴額、事案の難易度等本件に顕れた諸事情を勘案すれば、被告会社は弁護士費用としてこのうち前項に算定した金額のほぼ一〇パーセント即ち、原告ヒデ子に対し六四万三〇〇〇円、原告恒太郎、同ハルヨに対し各三九万四〇〇〇円を本件事故と相当因果関係の範囲にある損害として賠償すべきものというべきである。

六  以上のとおりであるから、原告らの被告会社に対する本訴請求は、原告ヒデ子については金七〇七万五四二九円および内金六四三万二四二九円に対する本件不法行為発生の日である昭和五〇年四月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告恒太郎、同ハルヨについては各金四三三万〇三二八円および各内金三九三万六三二八円に対する右同日から支払ずみまで右同割合の遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこの限度で認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田真一)

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